2008/11/17    手のひらを太陽に

みんな生きているんだ友達なんだ


チェキラ!チェキラ!

想像は事実よりも深い。
神話は歴史よりも意味深い。
夢は現実よりも感動的である。
希望は常に体験に勝る。
笑いだけが悲しみを癒す。
愛は死よりも強い。
――ロバート・フルガム

「ちゃんと生きろバカヤロウ」よく父に叱られた。年をとってからは孫にも言っていた。叱る事は真剣な眼差しでよく口にした台詞だ。その父が亡くなった。葬儀をすませたばかりの私に母は「父さんからだよ」と言って遺書を渡してくれた。



フィリップ・パカレ
「おいケンゾー、起きろ」頬をハタかれる荒っぽい起こし方だ。うっすらと意識の中でこんな起こし方をするのはあいつしかいない。目覚めつつある中で、やっぱりだナマだ。両手で顔をぐちゃぐちゃにして強引に神経を呼び起こして「コラお前。オレ、お前の上官だぞ」

「おう、そうだった。でも今から少しの間は関係ない。セージもハマちゃんも待っている。」明日ナマに特攻命令が下された。その命令を伝えたのは私だ。

ケンゾー、セージ、ハマちゃん、ナマ。4人は同じ中学で野球をやった仲間だ。偶然に同じ部隊に配属された。もうすぐこの戦争が終わる3ヶ月前のある日、朝4時に無理やりの送別会が始まった。2日前に送別会をやって、前日は体調を整えて戦闘機に乗るというのがこの部隊の方針なのだが、上官からくすねたといっていつの間にか私からくすねた酒瓶をもって「さぁ飲もうぜ」と言って私に注いでくれた。
昔からお調子者で口数が多く、上の人間に逆らって損をする。これから死にに行こうとする今でも変わらない。セージは寡黙に。ハマちゃんはニコニコしながらあまり喋らず。ナマだけがよく喋る。いつもの光景だ。「生きて帰って来い。」そう言えないもどかしさをナマ以外の3人が感じている以外は。



ルー・デュモー
「ナァ」とナマが切り出して「俺は明日死ぬ。ん〜、たぶん間違いなく死んでくる。」3人は黙って聞き入った。「でもナァ、おそらく間違いない。負けだこの戦争。」

――「でもナァ、親が、家族が、仲間がメリケンにやられると思うととても悲しい。だから明日、頑張って死んでくるよ。でもさ、お前らは俺の分も生きてくれ。」

ナマには体の悪い父とそれを看ている母がいる。
セージは2人の男の子がいる。
ハマちゃんには2人の女の子がいる。
そして私には妻がいる。

中学の野球はキツかった。練習も長く、先輩も怖かった。そんな中不思議とウマの合った4人はお互いに励ましあって頑張った4人だ。中学を出て等々のバラバラになった4人が偶然に同じ部隊に配属された。

暗闇から灰色に変わる窓の景色を見ながらナマは「俺は幸せ者だ。お前達3人と酒が飲めた。来世でもまた4人で飲もう。」と背中を見せて我々に語りかけた。セージが「そうだな」と。ハマちゃんはニコニコしながら酒をナマについでやった。私はその背中をじっと見ている。外がオレンジ色になってきた。ナマには恐らく最期の朝焼けだ。そしていつか他の3人にもやってくる最後の朝焼け。覚悟はできている。



フレディック・コサール ラパン
ハマちゃんが急に走って外に出て行った。「何だ?」と3人で見ているとセージが気付いた。「見ろ、敵だ!数が多いぞ!!」
そしてサイレンが鳴る。セージは見張り台の機銃に向かって。ナマは自分の飛行機に向かって。私は管制塔に向かって全力疾走だ。
朝焼けに輝く太陽を黒く塗りつぶすような大群が攻めてきた。ここの基地はメリケンにとっては解りにくく、その力を最大限に利用して少数で相手を苦しめてきた。
何故解ったんだ!と同時に本当にこの戦いは我々に勝ち目はないと思った。ふと気が付くと大群の戦闘機に向かって一機だけ敵のど真ん中に向かっていく我々の戦闘機があった。

――ハマちゃんだ。

とその瞬間、多数のメリケン戦闘機に囲まれ攻撃を受けたハマちゃんの戦闘機は太陽に向かって黒煙を上げながら森の中に突っ込んでいった。一瞬の間をおいて盛の中から大きな爆音と、黒煙がドーンと上がった。「ハマちゃーん!!」走る足も止まり叫んでいた。
滑走路に飛び立とうとする一機の戦闘機が・・・あれはナマだ!しかしメリケンの大群がナマに向かって攻撃してくる。こっちはセージが見張り台からマシンガンで援護する。「ウォー」とすごい雄叫びを上げながら。しかしセージのマシンガンが止まった。マシンガンに寄りかかって倒れている。
陸兵だ!!陸からもメリケンが攻めて来ている。こっちに向かって多数の軍隊が攻めて来ている。私も銃を握りしめた。その陸軍に向かって滑走路から外れた戦闘機が攻撃している。飛べなくなった戦闘機で、ナマが歩兵に向かって突っ込んでいく。しかし空からまたしてもナマに向かって攻撃してくる。機体はボロボロになった。それでも歩兵に向かって進んでいたが、トドメを刺された。歩兵に向かう途中で機体もろとも爆発した。私はもう声も出ない。

よし、勇敢に戦って死んでやると覚悟を決めた。歩兵の多くが近付いてくる。そこへ「ヌォー」と叫びながら走る男がいる。セージだ。
セージは手榴弾を抜くと歩兵の後ろから飛び込んでいった。「セージ!!」と叫んだ時にはメリケンの歩兵の中で爆音が響いていた。気が付くと私も「ウォー」と叫びながら歩兵に向かって走り出していた。しかし足を撃たれもんどりうっているうちに、敵に囲まれてしまった。



栗のティラミス
マスカルポーネアイス添え
――父は捕虜になった。

捕虜になった最初の頃、何度か自決を試みたらしい。しかし敵に見つかり死なせてもらえなかったようだ。その度にメリケンに向かって「俺の友達を返せ。虫ケラのように殺しやがって。戦いに負けても精神は負けないぞ」と言い放っていたそうだ。本気で死ぬつもりだったのだろう。与えられる食事にも全く手をつけなかった。
捕虜になって一週間が経とうとしたある日、そいつはやって来た。清潔でキレイな軍服に身を包み、葉巻をくぐらせ、父の食事を持ってきた。そして丁寧に食事を置くと父に向かって言った。
「死にたいのか?」
力いっぱいに睨む父に向かって続けた。
「私はこの戦いで多くの友人や部下を失った。今ここに生きている私も苦しい。だが私は生きる事をチョイスする。何故だ?あなた達には死が美学なのか?」
そして「我々は、少なくとも私は生きる事が美学だ。」


遺書には結局どうして欲しいとか、お金の事などには触れていなかった。最後に母さんを頼むと括ってあった。

翌朝いつもと同じように犬の散歩に出掛けた。今朝はキレイな朝焼けだ。煙草の吸殻が捨ててあるのを見つけた。いつもは気付かない。それを拾ってポケットに入れた。ちゃんと生きようと思った。

 「お待たせ致しました。」

 「いらっしゃいませ